ガソリン、減税25円はどこへ消えたのか
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給油口にノズルを差し込みながら、「あれ、減税したんじゃなかったっけ」と思ったことはないでしょうか。2025年の年末、ガソリンの暫定税率が廃止されるというニュースは大きく報じられました。1リットルあたり25.1円。50年以上続いた上乗せがなくなる、と。
それから8か月あまり。全国平均のレギュラー価格は、2026年8月24日時点で169.9円です。減税前とほとんど変わりません。
減税の25.1円は、消えたのではありません。別のものに食べられています。 この記事では、その「別のもの」の正体と、それが家計にいくらの差を生んでいるのかを、ひとつの家庭を例に置いて追いかけます。
(この記事の数値はすべて2026年9月2日時点で確認したものです。ガソリン価格と補助単価は週単位で動くため、給油前に最新値をご確認ください。)
例として、年8,000km走る家庭で考える
架空の設定として、こんな家庭を置きます。実在の家庭ではありません。
- 30代夫婦と子ども1人
- 普通車を1台保有
- 年間の走行距離は8,000km(通勤と週末の買い物、年に数回の帰省)
- 実燃費は15km/L
この家庭が1年に給油するガソリンは、8,000 ÷ 15 で約533リットルです。日本の一般的なマイカー世帯としては、多すぎず少なすぎずというあたりでしょう。
533リットルという数字を覚えておいてください。この記事に出てくる「1円の差」は、この家庭にとって年間533円の差になります。逆にいえば、1リットルあたり10円の変動は、年間5,000円強の家計の増減として現れます。 給油のたびには気づきにくくても、年で見ると無視できない額です。
1月に154円だったものが、8月に170円へ
まず、この1年に何が起きたのかを価格で並べます。
| 時点 | レギュラー全国平均 | 例の家庭の年間ガソリン代(533L換算) |
|---|---|---|
| 2026年1月19日 | 154.7円/L | 約82,000円 |
| 2026年8月24日 | 169.9円/L | 約91,000円 |
1月19日の154.7円は、暫定税率の廃止が店頭に行き渡った時期の水準です。ここが直近の底でした。そこから8月24日までに15.2円上がっています。この家庭の年間ガソリン代に直すと、約8,100円の増加です。
減税は効いた瞬間があった、というのが正確な言い方です。 実際に154円台まで下がりました。問題は、その後に何が起きたかです。
減税25.1円は、なくなっていない
最初に誤解を解いておきます。暫定税率の廃止は撤回されていません。
- ガソリンの旧暫定税率25.1円/Lは、2025年12月31日に廃止されました
- 軽油引取税の暫定税率17.1円/Lも、2026年4月1日に廃止され、本則の15.0円/Lになりました
軽油の廃止が4か月遅れたのは、軽油引取税が都道府県の税金で、地方自治体の財政年度に合わせる必要があったためです。どちらも、いまも廃止されたままです。
つまり、いま払っている169.9円は「25.1円が抜けたあとの169.9円」です。もし暫定税率が残っていたら、同じ状況で195円前後になっていた計算になります。減税は、値下げではなく「値上がりの緩衝材」として働いたというのが実際のところです。
では、何が25.1円を打ち消したのか。ふたつあります。
ひとつは原油価格です。2026年に入ってから中東情勢、とくにイランをめぐる緊張が再燃し、原油価格が急騰しました。ホルムズ海峡は世界の石油輸送量のおよそ2割が通る要衝で、ここのリスクが上がると原油の国際価格は即座に反応します。
もうひとつは円安です。原油はドル建てで買います。同じ1バレルでも、円が安ければ円建ての仕入れコストは上がります。原油高と円安が同時に来ると、輸入コストは二重に膨らみます。
この2つが、25.1円の減税分を上から塗りつぶしました。
いまの170円を支えているのは、32.5円の補助
ここが、多くの人が知らないまま給油している部分です。
政府は2026年3月19日出荷分から、燃料油の補助(激変緩和措置)を再開しました。目的は、全国平均のガソリン価格を170円程度に抑えることです。この補助は元売り事業者に支給され、卸価格を通じて店頭価格に反映される仕組みになっています。
直近の支給単価は、8月27日から9月2日分でガソリン・軽油ともに1リットルあたり32.5円です。
そして2026年9月1日、政府は予備費から6,136億円をこの補助に充てることを閣議決定しました。担当大臣は、全国平均170円程度に抑える方針を続けると説明しています。
数字を整理すると、こうなります。
| 内訳 | 1リットルあたり |
|---|---|
| いま店頭で払っている全国平均 | 169.9円 |
| 上に乗っている補助(8月27日〜9月2日分) | 32.5円 |
| 補助がなかった場合の理論値 | 202.4円 |
170円という数字は、市場がつけた値段ではなく、政策が支えている値段です。 ここを取り違えると、家計の見通しを間違えます。
なお、補助単価は理論上の額です。元売りへの支給が店頭価格にどこまで反映されるかは地域や店舗で差が出るため、32.5円が丸ごと値札に現れるとは限りません。
この家庭にとって、補助が外れると年1.7万円
例の家庭に戻します。年間533リットルです。
- 補助32.5円 × 533L = 約17,300円
補助が完全に外れると、この家庭のガソリン代は年間で約1万7,000円増えます。 月に直せば約1,440円です。子どもの習い事ひとつ分、と言えば実感が湧くでしょうか。
ただし、いきなり全額が外れる可能性は現時点では高くありません。それより現実味があるのは、目安の水準そのものが動くケースです。
報道では、170円という目安を175円に引き上げる案が政府内で浮上していると伝えられています。ただしこれは検討段階で、2026年9月2日時点で正式決定の発表はありません。
もし目安が175円になった場合、この家庭の負担は次のようになります。
- 5円 × 533L = 約2,700円/年
年間2,700円。金額としては大きくありませんが、「補助は続くのに負担は増える」という形の値上がりは、ニュースになりにくく、気づきにくいという性質があります。給油の頻度が変わらないまま、明細だけが少しずつ厚くなっていきます。
決まっていないのは「170円」を続けるかどうか
補助はいつまで続くのか。これがいちばん知りたいところですが、期限は切られていません。
資源エネルギー庁の説明では、ガソリン・軽油の暫定税率の扱いについて結論が得られ、それが実施されるまでの間、補助を継続するとされています。つまり終了日ではなく、終了「条件」だけが示されている状態です。
家計の側から見ると、これは扱いにくい情報です。「来年3月まで」と言われれば準備できますが、「制度の議論が決着するまで」では、いつ財布に来るのかが読めません。
期限が示されていない補助は、いつ終わってもおかしくない補助として扱うのが安全です。 楽観も悲観もせず、外れたときの金額だけ先に知っておく。それがこの家庭にできる備えです。
電気の補助が外れる10月と、同じ形になる
この構図には、すぐ隣に実例があります。電気・ガス料金の支援です。こちらは2026年9月使用分で一区切りとなり、10月の請求から支援のない水準に戻ります。
補助が入っている間は請求額が抑えられ、多くの人はその存在をあまり意識しません。ところが補助が外れた月に、使用量は変わっていないのに請求だけが増える。そこで初めて「何が起きたのか」を調べ始めることになります。
同じことが、ガソリンでも起きえます。違いは、電気の請求は月1回まとめて届くのに対し、ガソリンは給油のたびに少しずつ支払う点です。分割で払っているぶん、値上がりに気づくのが遅れます。
電気・ガスの支援が10月にどう外れるかは、電気代の補助が9月で終了|効く手はどれにまとめています。先に同じパターンを一度見ておくと、ガソリンでも慌てずに済みます。
この家庭が9月に決めること
例の家庭が、この9月にできることは3つあります。どれも大がかりな話ではありません。
1つめは、年間のガソリン代を1本の数字にすること。
多くの家庭で、ガソリン代は「そのつど払う変動費」として扱われ、年間いくらかを把握していません。まず年間の走行距離と実燃費から、給油リットル数を出す。走行距離は車検証か点検記録、実燃費は満タン法(満タンにしてから次の満タンまでの走行距離÷給油量)で1回測れば十分です。
年間533リットルという数字さえ持っていれば、補助が動いたときに家計への影響を自分で計算できます。ニュースの「1リットル5円」を、自分の家の「年2,700円」に翻訳できるようになる。これが一番効きます。
2つめは、車にかかるお金をガソリンだけで見ないこと。
車の費用は、ガソリン・自動車保険・自動車税・車検・駐車場に分かれています。ガソリンだけを見て一喜一憂するより、5つを足した年額で見たほうが、削れる場所が見つかります。とくに自動車保険は各社が値上げを進めており、更新月によって影響の出るタイミングが違います。
3つめは、記録の置き場所を決めること。
数字を出しても、置き場所がないと翌月には忘れます。給油のたびにレシートを手入力するのは続きません。カードや電子マネーで給油しているなら、明細が自動で集計される形にしておくと、年末に「今年のガソリン代はいくらだったか」がそのまま出てきます。
減税25.1円は、いまも効いています。効いているのに実感がないのは、原油高と円安がそれを上回り、その差を32.5円の補助が埋めているからです。支えが2本入った上に、いまの170円が乗っている。 そのどちらが動いても、給油代は動きます。
年間533リットル。自分の家の数字を一度出しておけば、次にニュースで単価が動いたとき、他人事ではなく自分の家計の話として読めるようになります。
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参考情報
- 資源エネルギー庁:ガソリンの暫定税率(当分の間税率)の廃止でガソリン代はどうなるの?
- 資源エネルギー庁:石油製品価格調査 調査の結果
- 日本経済新聞:ガソリン減税法が成立、1リットル25.1円分 12月31日から適用
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。