親の口座凍結、後見人の8割は身内以外
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※本記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。制度・統計の最終確認日は2026年8月21日です。
先に結論から書きます。親の預金が動かせなくなったとき、家族が自力でどうにかできる範囲はかなり狭く、実際には成年後見制度に進む家庭が大半です。そして後見人に選ばれるのは、多くの場合あなたではありません。
最高裁判所事務総局家庭局が2026年3月に公表した「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」によると、2025年に全国の家庭裁判所に申し立てられた成年後見関係事件は43,159件。そのうち成年後見人等に親族が選ばれたのは16.4%にとどまり、残る83.6%は司法書士・弁護士・社会福祉士といった第三者でした。
「そのときが来たら、子どもの自分が管理すればいい」という前提は、統計上は6件に1件しか成立していません。
この記事では、親の口座と認知症をめぐって多くの人が持っている思い込みを3つ取り上げ、公的な資料で訂正していきます。読み終えたときに、「今日、親と何を話せばいいか」が1つ決まることを目標にします。
誤解1:認知症と診断された時点で、口座は自動的に凍結される
これは違います。診断書が銀行に届くわけではないので、診断そのものが引き金にはなりません。
止まるのは、銀行の窓口で「本人の意思確認ができない」と判断されたときです。全国銀行協会が2021年2月18日に公表した「金融取引の代理等に関する考え方」は、その前提をはっきり書いています。
銀行の預金は基本的には本人の資産であり、預金を払い出す場合には預金者本人の意思確認が必要となる
つまり銀行が見ているのは病名ではなく、目の前の本人が取引の内容を理解して自分の意思で決められるかどうかです。同じ考え方の中では、本人の判断能力の低下を確認する方法として、本人との面談、診断書の提出、担当医からのヒアリング、複数の行員による面談などが挙げられています。
ここから2つのことが分かります。
ひとつは、診断がついていなくても止まることはあるということ。手続きの説明が通らない、暗証番号や住所が出てこない、高額の出金理由を本人が説明できない——そうした窓口でのやり取りが積み重なれば、診断の有無にかかわらず取引は慎重に扱われます。
もうひとつは、逆に診断がついていても、本人がしっかり受け答えできる段階なら通常どおり取引できるということです。「認知症と分かった=もう何も手を打てない」ではありません。むしろ、この時期こそが手を打てる最後の窓になります。
日常的な引き落としや年金の入金まで一斉に止まるようなイメージが先行しがちですが、実務で問題になるのは主に、まとまった額の払い出し、定期預金の解約、投資信託の売却、不動産の売却といった「本人の意思確認が要る大きな取引」です。まずここを正しく怖がってください。
誤解2:家族なら、医療費くらいは下ろさせてもらえる
「事情を話せば、施設の入居費くらいは何とかしてくれるだろう」——これがいちばん危ない期待です。
前述の全国銀行協会の考え方には、代理権のない親族が本人の預金を引き出すケース(無権代理)についての記述があります。ただしその位置づけは、こう書かれています。
親族等による無権代理取引は、本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である
そのうえで、認知判断能力を失う前なら本人が支払っていたはずの医療費などを親族が代わりに払う行為のように、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる、とされています。同じ資料は「成年後見制度の利用を求めることが基本」とも明記しています。
読み方を間違えないでください。これは「家族なら医療費を下ろせる制度ができた」という話ではありません。銀行がリスクを負ったうえで、例外的に応じる余地があるという整理です。応じるかどうかは各行の判断で、金額の上限、必要な証拠書類、振込先の指定(本人名義の口座や施設への直接振込に限る等)も銀行ごとに違います。
そして、この余地は投資信託などの金融商品にはさらに狭く適用されます。同資料は、価格変動があり一度解約すると元に戻せないことを理由に、金融商品の解約等についてはより慎重な対応が求められるとしています。「預金が尽きたら投信を崩せばいい」という想定は、その時点では通らない可能性が高いということです。
現実に何が起きているかは、家庭裁判所の統計がはっきり示しています。2025年に終局した成年後見関係事件について、主な申立ての動機の内訳は次のとおりでした(複数回答のため合計は100%になりません)。
- 預貯金等の管理・解約:39,871件(93.4%)
- 身上保護:31,655件(74.2%)
- 介護保険契約:19,502件(45.7%)
- 不動産の処分:15,502件(36.3%)
- 相続手続:10,909件(25.6%)
申立ての9割超が「預貯金が動かせない」ことを動機にしている。これは、例外的な引き出しでしのげなかった家庭がそれだけ多い、ということの裏返しです。ちなみに開始原因の61.3%は認知症でした。
誤解3:後見人には、子である自分がなればいい
ここが最も認識のズレが大きいところです。
2025年に成年後見人等が選任された42,732件(関係別の集計)のうち、内訳はこうなっています。
- 親族:7,014件(16.4%)
- 親族以外:35,718件(83.6%)
- 司法書士:11,966件(33.5%)
- 弁護士:8,903件(24.9%)
- 社会福祉士:7,280件(20.4%)
さらに親族7,014件の内訳を見ると、子が52.0%。つまり全体に対して「子が後見人に選ばれた割合」は1割にも届きません。
ただし、これを「家庭裁判所が親族を締め出している」と読むのは正確ではありません。同じ統計には、申立書に親族を候補者として記載していた事件は19.7%しかなかった、という数字も載っています。そもそも8割の申立てが、最初から親族以外を想定して出されているのです。
背景には、後見人の仕事が想像より重いという事情があります。家庭裁判所への定期報告、本人の財産と自分の財産の完全な分離、収支の記録。仕事や子育てと並行して続けるには負担が大きく、専門職に任せる判断は決して不合理ではありません。
一方で、専門職が就けばその報酬は本人の財産から毎年支払われ続けます。金額は家庭裁判所が本人の財産額や事務内容に応じて決めるため一律ではありませんが、後見は原則として本人が亡くなるか判断能力が回復するまで続く制度です。「一時的に口座を開けるために使う道具」ではない、という点は先に理解しておいてください。
なお、後見開始までにかかる時間は、実は世間のイメージほど長くありません。2025年に終局した事件のうち2か月以内が71.1%、4か月以内が93.8%。鑑定が行われたのは全体の3.4%にすぎず、その費用も85.8%が10万円以下でした。時間より、「誰が管理するかを自分では選べない」ことのほうが本質的な問題だと考えたほうがいいでしょう。
判断能力があるうちにできることは、地味で確実
3つの誤解を整理すると、打てる手はすべて「親が自分の意思を示せるうち」に寄っていることが分かります。順に、負担の軽いものから並べます。
1. どこに、いくらあるかを一覧にする
金融機関名と口座の種類、保険、証券、不動産、借入。まずこれだけで構いません。凍結が起きたときに家族が最初に詰まるのは「そもそも口座の存在を知らない」という段階です。通帳やキャッシュカードの保管場所ではなく、存在するもののリストを親と一緒に作ります。
2. 銀行の「代理人の届出」を確認する
全国銀行協会の考え方では、本人から親族等へ有効に代理権が与えられ、銀行がその届出を受けている場合、その任意代理人と取引を行うことが可能とされています。名称や条件、対応できる取引の範囲は銀行ごとに異なるため、親の取引店に「本人が元気なうちに代理人の届出はできるか」を直接確認してください。これは本人の意思がはっきりしているうちしか申し込めません。
3. 任意後見・家族信託は、専門家に相談する領域と割り切る
任意後見契約は公正証書で結ぶ必要があり、家族信託も契約の設計次第で使い勝手が大きく変わります。ここはブログの情報で自作するものではありません。司法書士・弁護士、あるいは市区町村の中核機関に相談してください。全国銀行協会の資料でも、地域包括支援センターや社会福祉協議会(日常生活自立支援事業)が高齢者支援の窓口として挙げられています。
4. 親の介護費用と、自分の老後資金を同じ紙に並べる
見落とされがちですが、口座凍結が家計を直撃するのは親ではなく子の側です。親の預金が使えない期間、施設費や医療費を立て替えるのは子であり、その分は自分の老後資金から出ていきます。「親のお金の問題」だと思っている間は、自分の家計の対策が始まりません。
数字を突き合わせる作業を一人で抱え込むのが難しければ、家計の全体像を第三者と整理するところから始める手もあります。
すでに「怪しい」と感じているなら、順番はこうなる
親の受け答えに不安が出てきた段階なら、動く順番が変わります。
まず地域包括支援センターに電話する。 市区町村ごとに設置されている高齢者の総合相談窓口で、介護保険の申請から専門機関の紹介まで無料で扱ってくれます。医療・介護・金銭管理のどこから手を付けるべきかの交通整理を、最初にここでしてもらうのが最短です。
次に、医師の診断を受ける。 診断は後見申立てに必要になるだけでなく、まだ判断能力が保たれていると確認できれば、前章の「元気なうちの手」が使える可能性が残ります。
そのうえで、家庭裁判所への申立てを検討する。 申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族などで、身寄りがない場合には市区町村長が申し立てる仕組みもあります。実際、2025年の申立人の23.7%は市区町村長でした。手続きの詳細と必要書類は、法務省と家庭裁判所の案内が一次情報です。
順番を逆にして、いきなり銀行の窓口で交渉から入るのは避けてください。銀行にできることの幅は、あなたが交渉して広がる種類のものではありません。
まとめ:親のお金の話は、元気なうちしか始められない
- 口座が止まる引き金は診断ではなく、窓口での意思確認ができないこと
- 家族による医療費の引き出しは制度化された権利ではなく、銀行が例外的に応じ得る余地にすぎない
- 2025年の後見申立て43,159件のうち、動機の93.4%が預貯金等の管理・解約
- 成年後見人等に親族が選ばれたのは16.4%。8割超は司法書士・弁護士などの第三者
- 打てる手(資産の一覧化、代理人の届出、任意後見・家族信託)はすべて本人の意思が示せるうちのもの
厚生労働省の研究班(九州大学・二宮利治教授ら)の推計では、認知症の高齢者は2025年に約471万人、2040年には約584万人に増えるとされています。確率の問題として、多くの家庭が通る道です。
お盆や連休で実家に帰ったタイミングは、この話を切り出す数少ない機会でもあります。財産の額を聞き出す必要はありません。「もしものとき、どこに何があるか分かるようにしておきたい」——最初の一言は、それで十分です。
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参考情報
- 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」(2021年2月18日公表):https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和7年1月〜12月―」(2026年3月):https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html
- 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」(地域包括支援センターの案内):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
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