106万円の壁撤廃で手取りはいくら減る?
※本記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。
10月の給与明細から、これまで無かった控除欄が2つ増える人がいます。厚生年金保険料と健康保険料です。
2026年10月に、パート・アルバイトが社会保険に入るかどうかを決めていた「月額賃金8.8万円以上」という条件が撤廃されるからです。いわゆる「106万円の壁」がなくなる、と報じられているのはこの話です。
壁がなくなると聞くと「じゃあ気にせず働ける」と思いがちですが、実際に起きるのは逆で、これまで壁の内側にいた人が、意識しないまま加入する側に移るという変化です。ここでは、ひとつの世帯を最後まで追いかけて、いくら減っていくら戻るのかを数字で見ていきます。
追いかけるのは、この世帯(架空のモデルです)
以下は実在の家庭ではなく、話を具体的にするために置いた架空のモデル世帯です。
- 夫(36歳・会社員):年収480万円、社会保険は勤務先で加入
- 妻(34歳・パート):従業員100人規模の企業で週20時間勤務、月給8.5万円(年収102万円)
- 子ども1人(保育園)
妻は現在、月給が8.8万円に届かないため社会保険に入っておらず、夫の扶養(国民年金の第3号被保険者)に入っています。健康保険料も年金保険料も、妻自身の負担はゼロです。
この世帯にとって「壁の撤廃」は、他人事のニュースではありません。勤務先の規模が51人以上で、週20時間以上働いている時点で、10月以降は加入対象になります。
何が消えて、何が残るのか
まず整理しておきたいのは、撤廃されるのは4つある加入条件のうち1つだけ、という点です。
厚生労働省の資料では、短時間労働者が社会保険に加入する条件として、週の所定労働時間が20時間以上であること、月額賃金が8.8万円以上であること、雇用期間が2か月を超える見込みであること、学生でないこと、そして勤務先の企業規模(現在は従業員51人以上)が挙げられています。
このうち、2026年10月に無くなるのが月額賃金8.8万円以上という「賃金要件」だけです。週20時間以上、2か月超の見込み、学生でないこと、という3つはそのまま残ります。
つまり、10月以降の実質的な線引きは「週20時間」に一本化されます。時給がいくらであろうと、週20時間以上のシフトで働いていれば加入対象になる、ということです。
企業規模の条件は、そのあと10年かけて段階的に外れていきます。
| 時期 | 加入対象になる企業規模 |
|---|---|
| 2026年9月まで | 従業員51人以上 |
| 2027年10月〜 | 従業員36人以上 |
| 2029年10月〜 | 従業員21人以上 |
| 2032年10月〜 | 従業員11人以上 |
| 2035年10月〜 | 規模の条件がなくなる |
(厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」より。最終確認日:2026-07-25)
モデル世帯の妻の勤務先は100人規模なので、すでに企業規模の条件は満たしています。待ったなしなのは今年10月、というのがこの世帯の現在地です。
10月、この世帯の手取りはいくら減るか
ここからは電卓の話です。妻の月給8.5万円は、社会保険の計算に使う「標準報酬月額」では88,000円に区分されます。
- 厚生年金保険料:88,000円 × 9.15% = 8,052円
- 健康保険料:88,000円 × 4.95% = 4,356円
- 合計:月12,408円
厚生年金の保険料率は18.3%で固定されており、会社と本人で半分ずつ負担するため、本人負担は9.15%です。健康保険料率は加入先や都道府県で変わりますが、協会けんぽの令和8年度の平均は9.9%で、これも労使折半なので本人は4.95%になります。
月給8.5万円に対して差し引かれるのが月12,408円。手取りは85,000円から72,592円へ、年間ではおよそ14.9万円の減少です。
なお40歳以上になると介護保険料(令和8年度は1.62%、本人負担0.81%)が上乗せされます。逆方向の話として、支払った社会保険料は全額が社会保険料控除の対象になるため、世帯の所得税・住民税はいくらか軽くなります。上の計算にはその軽減分は入れていないので、実際の目減りはもう少し小さくなります。
「年15万円」という数字だけを見て、反射的にシフトを削る判断をするのは早すぎます。 減った分が何になって返ってくるのかを見てからでも遅くありません。
減った14.9万円は、何に変わるのか
会社も同額の12,408円を負担しています。合計で月およそ2.5万円が、妻の名義の年金と健康保険に積まれていく形になります。
将来の年金。老齢厚生年金の報酬比例部分は「平均標準報酬額 × 5.481 ÷ 1000 × 加入月数」というおおまかな式で計算されます。標準報酬月額88,000円で12か月働くと、88,000 × 5.481 ÷ 1000 × 12 = 年およそ5,788円。これが1年加入するごとに、受け取り開始後は生涯にわたって上乗せされる計算です。同じ条件で10年続ければ年およそ5.8万円。受給が何年続くかで総額は変わるので「◯年で元が取れる」と断定はできませんが、掛け捨てではないことは確かです。
病気やケガのときの傷病手当金。健康保険に自分で加入していると、病気やケガで働けない期間に、給与のおよそ3分の2にあたる手当を最長1年6か月受け取れます。扶養に入っているだけの状態ではこの給付はありません。
出産手当金。産前産後の休業期間に同様の手当が出ます。これも被扶養者にはない給付です。
第3号被保険者から第2号被保険者へ。国民年金の基礎年金部分は第3号のままでも満額に向けて積み上がるので、そこは変わりません。増えるのは上乗せ部分と、健康保険の給付の手厚さです。
つまりこの世帯が失うのは「今の現金・年14.9万円」で、得るのは「将来の年金の上乗せ」と「働けなくなったときの保障」です。どちらが大事かは、貯蓄の厚みと、この先何年働くつもりかで変わります。
世帯としての選択肢は、大きく3つ
妻が取れる道は3つあります。それぞれの効き方が違うので、整理しておきます。
106万円の壁撤廃 | 週20時間で働く人の選択肢
10月以降、この世帯が取れる3つの道
モデル世帯(月給8.5万円・週20時間・従業員100人の勤務先)で比べた場合
| 当面の手取り | 将来の年金 | 病気・出産の保障 | |
|---|---|---|---|
| 週20時間未満に減らす 加入を避ける | △ 保険料は無いが給与自体が減る | × 上乗せは増えない | × 傷病手当金・出産手当金なし |
| そのまま加入する 時間も給与も変えない | × 月12,408円ぶん減る | ○ 1年で年5,788円ぶん積み上がる | ○ 傷病手当金・出産手当金の対象 |
| 月給を9.9万円まで増やす 時間か時給を上げる | ○ 手取りは加入前と同水準に戻る | ○ 標準報酬が上がるぶん多く積み上がる | ○ 傷病手当金・出産手当金の対象 |
- ※保険料は協会けんぽ令和8年度平均(健康保険9.9%)と厚生年金18.3%の労使折半で試算。加入先や都道府県で変わります
- ※社会保険料控除による所得税・住民税の軽減は試算に含めていません
資産化計画
3つ目の「増やす」を具体的に計算しておきます。月給を9.9万円にすると標準報酬月額は98,000円になり、保険料は厚生年金8,967円と健康保険4,851円で月13,818円。手取りは99,000円 − 13,818円 = 85,182円で、加入前の85,000円をわずかに上回ります。
月給を1.4万円ほど(約16%)増やせば、手取りは元の水準に戻る。減った分を取り返す目安としては、この「9.9万円」が一つの目標になります。
一方で1つ目の「週20時間未満に減らす」は、保険料は避けられても、減らした時間ぶん給与そのものが減ります。壁を避ける動き自体にコストがあることは、忘れないでおきたいところです。
「130万円の壁」は消えない
ここでよく混線するので、はっきり分けておきます。
- 106万円の壁=勤務先で社会保険に入るかどうかの基準。2026年10月に撤廃
- 130万円の壁=配偶者の健康保険の扶養に入り続けられるかどうかの基準。残ります
つまりモデル世帯の妻が、パートを掛け持ちするなどして週20時間の条件を回避しつつ年収を伸ばしていったとしても、130万円のところに別の壁が待っています。
この130万円の壁については、厚生労働省が運用の柔軟化を示しています。繁忙期の残業などで一時的に130万円を超えた場合でも、勤務先の事業主が証明すれば原則として連続2回までは扶養に入り続けられる扱いや、労働契約の内容から見た年収が130万円未満であればその額で認定する取り扱いです。また19歳以上23歳未満の被扶養者については、年収要件が150万円未満に引き上げられています。
ただし実際の判定は加入している健康保険(協会けんぽか健保組合か)によって運用が異なります。「たぶん大丈夫」で押し切らず、勤務先か健保に確認するのが確実です。
なお、所得税の配偶者控除や「年収の壁が178万円へ」といった話は税金側の制度で、ここまで書いてきた社会保険の壁とは別に動きます。混ぜて考えると必ず判断を誤ります。
この世帯が7月にやったこと
モデル世帯の夫婦が、10月までの3か月で実際に手を付ける順番はこうなります。
1. 勤務先の従業員数と、契約書の所定労働時間を確認する(所要10分)。加入するかどうかを決めるのは「実際に働いた時間」ではなく、まず雇用契約書に書かれた所定労働時間です。週20時間ちょうどなのか、19時間なのか、契約書を見ないと始まりません。
2. 今の時給で、加入後の実質時給を出す。保険料を引いたあとに手元に残る金額で考え直すと、判断の材料が変わります。実質時給計算機を使うと、手取りベースの時給が数十秒で出ます。
3. 勤務先に「10月以降のシフトの方針」を聞く。会社側も保険料の負担が増えるため、シフトを調整する方針を出している職場があります。夏のうちに聞いておくと、9月に慌てずに済みます。
4. 世帯としての方針を決める。手取り重視で時間を抑えるのか、月給9.9万円を目指して増やすのか。夫の年収・今後の働き方・貯蓄額まで含めて考える話なので、夫婦2人だけで結論を出しにくいところでもあります。
社会保険と税金と将来の年金が絡む判断は、条件が1つ違うだけで答えが変わります。自分の世帯の数字で一度シミュレーションしてから決めたい人は、無料のFP相談で試算だけしてもらうのも手です。
10月の給与明細を見てから慌てる世帯と、7月に契約書を開いた世帯とでは、選べる道の数が変わります。壁が消えるというニュースは、実のところ「働き方をもう一度決め直してください」という通知です。
参考情報
あわせて読みたい
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。