暗号資産の20%課税、2028年まで待つ?
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暗号資産の利益に20%の申告分離課税を導入する法律は、2026年3月31日に公布されています。ここまでは事実です。
ところが「もう20%になった」と受け取って、含み益を持ったまま安心している人がいます。実際に20%が適用されるのは、金融商品取引法等の改正法が施行された翌年の1月1日以後の譲渡からで、現時点では2028年1月開始が見込みとされています。つまり2026年と2027年の売却益は、これまでどおり雑所得・総合課税です。
この2年のズレは、金額にすると小さくありません。ここでは架空のモデルケースを使って、「今売る」と「2028年以降まで持つ」で税額がどれだけ変わるのか、そして待つ判断がどこで崩れるのかを順に追っていきます。制度の内容は国税庁の公表資料とシンクタンク・税理士事務所の解説で確認しました(最終確認日:2026-07-30)。
20%の中身と、適用の条件
新しい制度で言われている20%は、内訳が決まっています。所得税15%+住民税5%で20%、これに復興特別所得税が別途かかります(基準所得税額の2.1%)。株式や投資信託の売却益と同じ形です。実務上の税率は約20.315%になります。
同時に、損失についても扱いが変わります。3年間の繰越控除と損益通算が認められる見込みですが、通算できる範囲は限定的です。「特定暗号資産」の現物取引の損益は、株式など他の金融商品とは通算できず、暗号資産の現物取引の中でのみ相殺する形になる見込みとされています。
適用にはいくつか条件が付きます。ここは見落としやすいところです。
- 譲渡する暗号資産が「特定暗号資産」であること(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産)
- 売却先が国内の登録業者であること
「暗号資産なら何でも自動的に20%」ではなく、銘柄と売却先の条件を満たしたものだけという設計です。海外の取引所に置いたままの資産をどう扱うかは、この条件に照らして確認が必要になります。
なお、2027年までの売却益に適用される現行の課税は雑所得で、超過累進税率です。よく見かける「最大55%」は所得税45%+住民税10%の合計で、課税所得が4,000万円を超える人の税率です。ほとんどの会社員はここには当たりません。自分の税率で計算しないと、判断を誤ります。
例として、30代会社員・含み益300万円の家庭を考えます
ここからは架空のモデルです(実在の家庭ではありません)。
- 会社員、給与以外の所得はなし
- 各種控除を引いたあとの課税所得は400万円
- 2020年に100万円で買った暗号資産が、いま400万円になっている(含み益300万円)
- 生活に必要な資金ではなく、当面使う予定はない
この人が「2026年中に売る」場合と「2028年以降に売る」場合を比べます。
2026年中に売った場合
雑所得300万円が給与の所得に上乗せされ、課税所得は700万円になります。所得税の速算表で計算すると次のとおりです。
| 区分 | 課税所得 | 所得税 |
|---|---|---|
| 売らなかった場合 | 400万円 | 37万2,500円 |
| 300万円の利益を足した場合 | 700万円 | 97万4,000円 |
増える所得税は60万1,500円。ここに復興特別所得税2.1%が乗って約61万4,000円、さらに住民税が利益の10%で30万円かかります。
合計で約91万4,000円、利益300万円に対する負担は約30.5%です。
「55%も取られる」ほどではありませんが、20%でもありません。総合課税は、売った年だけ所得が跳ね上がるため、税率の階段を一段上がってしまうのがこわいところです。
2028年以降に売った場合(分離課税が適用された前提)
同じ300万円の利益なら、300万円 × 20.315% で約61万円です。給与の所得とは切り離して計算されるので、給与側の税率も上がりません。
差額は約30万円。利益300万円の1割にあたる金額です。
課税所得が高い人ほど、この差は開きます。給与の課税所得900万円の人が1,000万円の利益を確定させた場合を同じ方法で計算すると、総合課税では約444万円(実質約44%)、分離課税なら約203万円で、差は約241万円になります。所得と利益が大きい人にとっては、待つかどうかは無視できない金額です。
それでも、待つ判断が崩れる4つの条件
税率だけを見れば「待つ」が有利に見えます。ですが、この判断は次の条件で簡単に崩れます。
1つ目は価格の変動です。 モデルケースで税率差によって残るのは約30万円でした。一方、100万円で買ったものが400万円になっている状態から価格が10%下がると、資産の評価額は360万円、含み益は260万円に減ります。利益が40万円減るので、税金で節約した30万円は消える計算です。 2年強のあいだ値動きを引き受けるのは、税率差より大きいリスクを取ることを意味します。暗号資産は値動きが大きく、元本が保証された商品ではありません。
2つ目は損失の扱いです。 分離課税の繰越控除は、適用開始後(2028年1月以後の見込み)に確定した損失に限られます。2027年以前に売って損失を確定させても、その損失を将来の分離課税の利益と相殺することはできません。含み損を整理するタイミングも、この線引きの影響を受けます。
3つ目は適用時期がまだ確定していないことです。 2028年1月というのは、金融商品取引法等の改正法の施行日から逆算した見込みです。施行が前後すれば、適用開始も動きます。「2028年に必ず20%で売れる」という前提で計画を立てるのは危険です。
4つ目は資金の使い道です。 住宅の頭金、教育費、事業の資金など、使う時期が決まっているお金なら、税率で売却時期を決めるべきではありません。税金は結果に対して後からかかるもので、必要な支出に合わせるほうが先です。
暗号資産 | 売却時期の考え方
2027年までに売る場合と2028年以降(見込み)の違い
税率だけでなく、値動きを引き受ける期間も一緒に見ます
| 税率 | 損失の繰越 | 価格の変動 | |
|---|---|---|---|
| 2027年までに売る 雑所得・総合課税 | × 所得と合算。所得次第で高くなる | × 繰越控除は使えない | ○ 今の価格で確定できる |
| 2028年以降に売る 申告分離課税・適用は見込み | ○ 20%(所得税15%+住民税5%) | ○ 3年間の繰越控除が使える見込み | × それまでの値動きを引き受ける |
- ※適用開始は金融商品取引法等改正法の施行日次第で、2028年1月は見込みです
- ※分離課税には「特定暗号資産」「国内の登録業者への売却」などの条件があります
- ※2027年以前に確定させた損失は、分離課税の利益とは相殺できません
資産化計画
2026年・2027年に売るなら、押さえておく実務
待たずに売る、あるいは一部だけ売るという判断をした場合、現行ルールでの申告になります。ここで取りこぼしが起きやすい点を挙げます。
同じ年の中なら、暗号資産どうしの損益は相殺できます。 ビットコインで利益、別の銘柄で損失が出ているなら、同じ雑所得の中で差し引きできます。ただし給与所得や事業所得との損益通算はできず、雑所得に損失の繰越控除もありません。年をまたぐと相殺できないので、同一年内に整えるしかありません。
取得価額の記録が、そのまま税額になります。 何度も買い増している場合、取得価額の計算方法(総平均法・移動平均法)によって利益額が変わります。取引履歴を取引所からダウンロードできるうちに保存しておくことが、後の作業を決めます。取引所のサービス終了や仕様変更で過去の履歴が取り出せなくなると、計算の根拠を失います。
給与以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は不要ですが、住民税は別です。 給与を1か所から受けて年末調整が済んでいる人が、給与以外の所得の合計が20万円以下であれば所得税の確定申告は要りません。ただしこれは所得税の話で、住民税は金額の下限なく申告が必要です。ここを勘違いすると、後から市区町村から連絡が来ます。
計算と記録をまとめる作業自体は、家計簿や会計ソフトに任せたほうが早い部分です。取引所の履歴と口座の入出金を一箇所で見られるようにしておくと、年末に慌てずに済みます。確定申告の作業を毎年ゼロから思い出しているなら、記録の置き場所を先に決めるほうが効きます。
自分が申告の対象になるのかどうかから確かめたい場合は、確定申告3問診断で3問だけ答えてみてください。所得税と住民税で結論が変わるところまで確認できます。
今日やっておくと、判断が楽になること
制度の適用時期は自分では動かせません。動かせるのは手元の情報の整え方です。
- 取得価額と取引履歴を今のうちに保存する。 取引所からCSVをダウンロードして、クラウドに置いておきます。どちらの時期に売ると決めても必要になる材料です。
- 自分の課税所得を確認して、税率を把握する。 源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から所得控除を引けば、おおよその課税所得が出ます。55%か30%かでは判断が変わります。
- 使う予定のあるお金かどうかを先に分ける。 使う時期が決まっているお金は、税率とは切り離して考えます。
- 一度に全部売る前提を外してみる。 総合課税は税率の階段があるため、年をまたいで分けて売ると1年あたりの上乗せを抑えられる場合があります。金額が大きいときは税理士に相談する価値があります。
税制の変更は「待てば得」という単純な話ではなく、値動きを2年分引き受けるかどうかの選択です。 どちらを選ぶにしても、判断の材料が手元にある状態にしておくことが先になります。
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参考情報
- 国税庁「No.1524 暗号資産を使用することにより利益が生じた場合の課税関係」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1524.htm
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 大和総研「暗号資産取引に20%の申告分離課税導入へ」(2026年2月6日):https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/tax/20260206_025575.html
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。