iDeCoと退職金、2026年から10年ルール
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2026年1月1日以後に支払われる退職金から、iDeCoの一時金との「重複期間の調整」が、前年以前4年内から9年内に広がりました。つまり、これまで「iDeCoを先に受け取って5年空ければ、退職金の控除はフルで使える」と言われていた設計が、10年空けないと成立しなくなったということです。
iDeCoは60歳から75歳までの間で、受け取りを始める年を自分で選べます。だからこそ、この改正で効いてくるのは金額ではなく「どの年に、どちらを先に受け取るか」という順番と間隔です。ここでは架空のモデルを1人置いて、その人の60歳から70歳までを時間軸で追いながら、どこで税額が変わるのかを見ていきます。
(この記事の制度・数値の最終確認日:2026-08-24。改正内容は税務専門誌および国税庁の公表資料で確認しています)
起点:iDeCoは「受け取る年」を自分で決められる
iDeCoの老齢給付金は、原則60歳以降75歳までの間に受け取りを開始します(60歳から受け取るには通算加入者等期間が10年以上必要で、足りない場合は開始年齢が段階的に後ろにずれます)。受け取り方は一時金・年金・併用の3つ。このうち一時金は税法上「退職所得」として扱われ、会社の退職金と同じ枠で計算されます。ここが今回の話の入口です。
退職所得の計算式は国税庁が公表しているとおりで、次のようになります。
- 退職所得の金額 =(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2
- 退職所得控除額(勤続20年以下)= 40万円 × 勤続年数(80万円未満なら80万円)
- 退職所得控除額(勤続20年超)= 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
勤続年数に1年未満の端数があるときは、1年に切り上げて計算します。iDeCoの一時金では、この「勤続年数」の代わりに掛金を拠出していた期間が使われます。
**同じ枠を使うからこそ、2回に分けて受け取ると「控除の二重取り」を防ぐ調整が入ります。**その調整の射程が、2026年から伸びたわけです。
2026年1月1日:調整の対象が4年内から9年内へ
令和7年度の税制改正で見直されたのは、次の一点です。
- 改正前:退職金を受け取った年の前年以前4年以内にiDeCoなどの確定拠出年金の一時金を受け取っていた場合、勤続期間の重複部分を排除して控除額を計算する
- 改正後:この期間が前年以前9年以内に広がる
- 適用:2026年(令和8年)1月1日以後に支払われる退職金から
逆の順番、つまり「退職金を先に受け取ってから、あとでiDeCoの一時金を受け取る」ケースは、以前から前年以前19年内が調整の対象で、ここは今回変わっていません。
整理すると、間隔の必要量は受け取る順番でまったく違います。
| 受け取る順番 | 調整を避けるために必要な間隔 | 2026年改正の影響 |
|---|---|---|
| iDeCoの一時金を先 → 会社の退職金を後 | 受け取る年の差が10年以上(前年以前9年内が調整対象) | あり。従来は5年で足りた |
| 会社の退職金を先 → iDeCoの一時金を後 | 受け取る年の差が20年以上(前年以前19年内が調整対象) | なし(従来どおり) |
「iDeCoを先に、5年空けて」という定番の設計だけが、静かに使えなくなりました。
時間軸で追う:60歳でiDeCo、65歳で退職金の人
ここから架空のモデルで見ます。実在の誰かの事例ではなく、制度の効き方を確かめるために置いた設定です。
- Bさん(架空・会社員)。23歳入社、65歳で退職予定。会社の勤続年数は42年
- iDeCoには30歳から60歳まで、30年間掛金を拠出した
- 60歳でiDeCoの一時金1,200万円を受け取る
- 65歳で会社の退職金2,000万円を受け取る(支払いは2026年1月1日以後)
Bさんの60代を、年で並べてみます。
| 時点 | 起きること | 退職所得の枠の状況 |
|---|---|---|
| 60歳 | iDeCoの一時金1,200万円を受け取る | 拠出期間30年 → 控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円。1,200万円は控除内におさまり課税ゼロ |
| 61〜64歳 | 受け取りなし | ここで退職金を受け取れば、改正前後どちらでも調整あり |
| 65歳 | 会社の退職金2,000万円を受け取る | 改正前なら調整なし/改正後は調整あり |
| 70歳 | (もし退職金を70歳まで繰り延べられるなら) | 差が10年になり、調整の対象外に戻る |
分かれ目は65歳の行です。改正前は「前年以前4年内」だけを見ていたので、5年前のiDeCoは射程外。ところが改正後は9年内まで見るため、5年前の一時金が引っかかります。
同じ2,000万円で、税額はいくら変わるか
Bさんの退職金2,000万円について、改正前と改正後で計算してみます。
改正前(調整なし)の場合
勤続42年に対応する控除額は、800万円+70万円×(42年−20年)=2,340万円。退職金2,000万円は控除額を下回るため、退職所得はゼロ。所得税・住民税もかかりません。
改正後(調整あり)の場合
重複期間を排除します。会社の勤続期間(23歳〜65歳)とiDeCoの拠出期間(30歳〜60歳)が重なるのは30年間。この30年分に対応する控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円です。
- 調整後の控除額 = 2,340万円 − 1,500万円 = 840万円
- 退職所得 =(2,000万円 − 840万円)× 1/2 = 580万円
- 所得税 = 580万円 × 20% − 42万7,500円 = 73万2,500円。復興特別所得税(2.1%)を加えて約74万8千円
- 住民税 = 580万円 × 10% = 58万円
- 合計 約132万8千円
同じ勤続、同じ金額、同じiDeCoの積み立て方でも、受け取る年の間隔が5年か10年かだけで、130万円前後の差が出る計算になります。
ただしこの差額はBさんの設定に固有のものです。重複期間が10年しかなければ調整額は400万円ですし、退職金が控除の枠内に十分収まる人なら、調整が入っても税額はゼロのままです。「10年ルールだから増税」ではなく、「自分の重複年数を数えないと分からない」が正しい理解です。
間隔を空ける以外の打ち手
会社の退職日は自分だけでは決められません。ずらせるのはiDeCo側だけ、という人のほうが多いはずです。その場合の選択肢は2つあります。
ひとつは順番の入れ替えですが、これは効きません。退職金を先にしてiDeCoを75歳まで待っても、差は10年止まり。この順番は19年内が調整対象なので、20年は空けられず調整が残ります。
もうひとつが一時金にしないことです。iDeCoを年金形式(または併用)で受け取れば、退職所得ではなく公的年金等控除の枠で扱われるため、退職所得の重複調整からは外れます。退職金が控除枠を大きく超える人にとっては、年をずらすより効く場合があります。選択肢は年の並べ替えだけではありません。
受け取りまでの工程:いつ、何を確認するか
順番と間隔で結果が変わる制度なので、必要な情報を集める順序も決まってきます。時期ごとに並べます。
| 時期 | やること | 見る資料 |
|---|---|---|
| 受け取りの2〜3年前 | 会社の退職金の見込額と、勤続年数の起算日を確認する | 勤務先の退職金規程、人事・総務への照会 |
| 2年前 | iDeCoの「掛金を拠出した期間」と現在の資産額を確認する | 記録関連運営管理機関から年1回届く通知、加入者用Webサイト |
| 1年前 | 受け取り年の組み合わせを2〜3パターン作り、控除額と税額を計算する | 国税庁の退職所得の計算式、勤続期間と拠出期間の重なり |
| 受け取る年 | 一時金・年金・併用を決めて裁定請求。会社には「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出する | 運営管理機関の請求書類、勤務先の年末調整・退職時書類 |
| 受け取った翌年 | 源泉徴収票を確認し、必要なら確定申告する | 退職所得の源泉徴収票 |
このうち、うっかりが致命傷になるのは4段目です。「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、退職所得控除が使われず、支給額に一律20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます(国税庁 No.2732)。控除内で税額ゼロだったはずの人が、2,000万円の退職金で400万円以上引かれる、ということが起こり得ます。この場合は確定申告で取り戻せますが、そもそも出しておけば起きない手間です。
企業型DCから移し替えた資産がある人は、勤続期間の起算日が思っているのと違うことがあります。企業型DCとiDeCoの関係は企業型DC改正2026|マッチング拠出で節税最大化で整理しているので、あわせて確認しておくと数え間違いが減ります。
30代の今、やっておくと後で効くこと
受け取りは20年以上先でも、今の記録の残し方で後の計算はかなり楽になります。
- iDeCoの拠出開始年月をメモしておく。「何年何月から掛金を出したか」が、そのまま将来の控除年数になります。運営管理機関を変えても期間は引き継がれますが、自分の手元に一次情報があると確認が早いです
- 勤務先に退職金制度があるか、どの種類かを一度だけ調べる。退職一時金か、確定給付企業年金か、企業型DCか。ここが分からないと重複年数の見積もりが立ちません
- 課税されない受け皿を並行して持つ。退職所得の控除枠は勤続年数で決まるため後から増やせませんが、NISAは受け取り時に課税されないので、枠の競合が起きません。iDeCoを増やすか新NISAを増やすかで悩んでいる人は、新NISA積立シミュレーターで積立額と期間を入れて、両方の伸び方を見比べてみてください
**控除の枠は「積み立てた額」ではなく「年数」で決まる。だから早く始めた人が有利で、あとから取り返しにくい。**この構造は改正で変わっていません。
なお、iDeCo自体は2026年12月に掛金上限が引き上げられます。増やすかどうかの判断材料はiDeCo上限が月6.2万円へ 会社員の増額試算にまとめてあります。出口の設計と入口の設計は、セットで考えたほうが結論がぶれません。
重複年数の数え方や、勤務先の制度の種類によっては、この記事の計算がそのまま当てはまらないことがあります。金額が大きい判断なので、実際に受け取る前に勤務先の担当部署と、税額については税務署または税理士に確認してください。
まとめ:数えるのは金額ではなく年数
影響を受けるのは「iDeCoを先に、退職金を後に」受け取る設計で、5年空ければよかったところが10年必要になったという一点です。逆順(退職金が先)の19年内ルールは変わっていません。
やることは3つに絞れます。会社の勤続年数を数える。iDeCoの拠出年数を数える。その2つが重なる年数を数える。この3つが分かれば、調整でいくら控除が削られるかは計算式に入れるだけです。金額を先に気にしても答えは出ません。
あわせて読みたい
参考情報
- 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
- 税務研究会 退職所得控除の調整規定の対象拡大〜令和7年税制改正〜
- 三菱UFJ銀行 iDeCoの給付金の受け取り
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。